フォークリフト技能講習の受講が決まった。受講案内を開いてみると、服装についてはひとこと、「動きやすい服装で」としか書いていない。
それで検索してみたら、今度は逆でした。長袖、長ズボン、作業着、安全靴、ヘルメット、軍手。ダメージジーンズはNG、ワイドパンツもNG、マフラーもNG。ずいぶん揃えないといけないらしい。
全部いるんだろうか。買わずに行って「その格好では受けられません」と言われたら、会社にどう説明するのか。
先に結論を書きます。服のことは、そんなに心配しなくていい。
ただし、心配する場所が別にあります。この記事でお渡ししたいのは、当日ほんとうに困るのは服ではないという話です。
迷うのは服じゃない、頭と手だ
あなたが確認すべきことは、これです。
迷うのは服じゃない、頭と手だ。
服は、肌が出ていなくて引っかかるところがなければ、たいてい通ります。それより先に確認すべきなのはヘルメット・手袋・靴の3点です。
「服装」で検索して服だけ決めて行った人が、当日いちばん困るのがここだからです。理由を3つ挙げます。
根拠1:服そのものの規定は、驚くほど緩い
まず、教習機関が実際に何と書いているかです。3つ並べてみます。
- 石災協東京 ——「服装は、原則自由ですが、ユニホーム(通常作業服)が最適」「履物は、必ず靴を着用、下駄、草履、サンダル等は厳禁」
- 陸災防 山形県支部 ——「動きやすい服装」
- 京都労働基準協会 福知山支部 ——「長そで作業服、フォークリフト運転にふさわしい服装で」
いちばん厳しい福知山でも、要求は「長そで」です。そして東京にいたっては原則自由。禁止されているのは下駄とサンダルでした。
ネットの服装記事に並ぶNGリストも、性質で分けると2つに畳めます。
- 半袖・半ズボン・ダメージジーンズ → 肌が出ている
- ワイドパンツ・マフラー・ネックウォーマー → 引っかかる、巻き込まれる
つまり基準は「肌を出さない」「引っかけない」の2つだけです。長袖と長ズボンと運動靴。この組み合わせは、たいていクローゼットにあります。買い足す必要があるのは、それが1着もない場合だけです。
根拠2:割れているのは3点、しかも「持参」が基本だった
問題はここからです。同じ3機関で、装備の指定を見比べるとこうなります。
| 教習機関 | 靴 | ヘルメット | 手袋 |
|---|---|---|---|
| 石災協 東京 | 靴なら可(サンダル厳禁) | 各自持参 | ゴム付き手袋 |
| 陸災防 山形 | 運動靴 または 安全靴 | 持参(貸出は先着・数に限り) | 記載なし |
| 京都労基協会 福知山 | 安全靴 | 必須 | 軍手 |
服の記述はどこも似ていたのに、装備は機関ごとにばらばらです。安全靴は必須のところと運動靴で通るところがあり、手袋は必須のところと記載すらないところがある。
そして、いちばん見落としやすいのがヘルメットでした。調べた3機関はすべて「持参」が基本で、貸し出しに触れていたのは1機関だけ、それも先着順で数に限りがあると書かれています。
「たぶん教習所が貸してくれるだろう」で行くと、当日の朝に詰みます。服を完璧に整えても、頭に何も載っていなければコースに出られません。
根拠3:守るべきなのは、服の生地ではなく頭と手だから
なぜ機関は、服を自由にしてもヘルメットと手袋は指定するのか。事故の中身を見ると理由がわかります。
厚生労働省の労働災害統計をフォークリフトで見ると、事故の型でもっとも多いのは「はさまれ・巻き込まれ」、次に多いのが「激突され」です。この2つが上位を占めています。
どちらも、体に何かが当たるか、体が何かに挟まれる事故です。服が擦り切れて起きる災害ではありません。
フォークリフト運転技能講習は労働安全衛生法にもとづく「技能講習」で、危険な機械を扱う人を送り出すための講習です。だから機関が守らせたいのは、当たると致命的な頭と、荷やマストに挟まれる手。服装の自由さと、装備の厳しさの落差は、そこから来ています。
この順番が分かると、確認すべき場所が自然に決まります。
夏と冬は、長袖の「中身」で調整する
ひとつだけ補足させてください。ここまで「長袖・長ズボン」と書いてきましたが、実技は屋外です。陸災防 山形県支部が持ち物に雨具(上下が分かれているもの)と長靴を挙げているとおり、多少の雨では止まりません。夏期の熱中症対策、冬期の防寒具を持ち物に明記している機関もあります。
そこで季節の話になるのですが、調整するのは長袖の外側ではなく、中身です。
夏。暑くても半袖という選択肢はありません。「肌を出さない」が基準だからです。かわりに、薄手で風を通す長袖を選ぶ。私が受けたのは6月でしたが、私服の長袖・長ズボンで最後まで困りませんでした。
冬。防寒具は上に重ねて構いませんが、マフラーとネックウォーマーは避けてください。首に「巻く」ものだからです。理由は根拠3と同じで、巻き込まれる形をしたものが機械のそばで嫌われます。首を温めたいなら、巻くのではなくハイネックのインナーを着るほうが理屈に合います。
同じ理由で、髪が長い人はまとめてください。服装の規定に書かれていないこともありますが、判断基準は服とまったく同じ「引っかけない」です。長い髪は、垂れていれば引っかかります。
夏も冬も、女性でも、見るところは変わりません。肌を出さない、引っかけない。その2つを季節に合わせて満たすだけです。
3点を確認して家を出た日の、講習の1日
——受講前夜のあなた。
検索窓に「フォークリフト 講習 服装」と打ち込んで、もう30分たっています。安全靴の商品ページを開いては閉じている。これ、明日までに届くだろうか。
——3点を確認したあなた。
受講案内をもう一度開いて、ヘルメット・手袋・靴の3語だけ探します。書いてあれば用意する、書いていなければ電話を1本かける。それだけで支度は決まります。
あとはクローゼットから長袖と長ズボン、玄関から運動靴。5分で終わります。
当日、会場に着いて周りを見ると、私服の人と作業服の人が混ざっています。誰も、服のことなど話題にしていません。
少し、私自身の話をさせてください。
私は2017年6月に会社の指示でフォークリフトの技能講習を受けました。会社からの指示は「動きやすい服装で」の一言だけ。私は私服の長袖・長ズボンに運動靴で行きました。学科の日も実技の日も、同じ格好で通しています。周りも私服と作業服ばかりで、浮いた感覚はまったくありませんでした。服装で困ったことは、一つもありません。
ただ、正直に書いておきたいことがあります。私は、ヘルメットと軍手を使ったかどうか覚えていません。買った記憶はない——買っていれば覚えているはずなので、買っていないのだと思います。おそらく教習所か会社が用意してくれていました。
つまり、私が何も困らなかったのは私の判断が正しかったからではありません。私の受けた機関が、そういう機関だっただけです。私は服のことしか考えずに行って、たまたま当たりを引いていた。
「じゃあ結局、自分で確認しないと分からないってことか」と思われたかもしれません。
逆です。確認する場所が、3つに絞れたということです。
受講案内を開いて、3語だけ探してください
最後に、いま10分でできることを書きます。
受講案内か申込書を開いて、次の3語を探してください。
- ヘルメット(持参か、貸出か)
- 手袋・軍手(必須か、任意か)
- 安全靴(必須か、運動靴で可か)
書いてあればそのとおりに用意する。書いていなければ、電話を1本かける。「服装は何でもいいですか」ではなく、「ヘルメットは貸していただけますか」と聞いてください。相手が答えやすく、あなたが本当に知りたいことでもあります。
服のほうは、それで終わりです。肌が出ない長袖と長ズボン、そして走れる靴。ダメージジーンズと裾の広いパンツだけ避ければ、あとは何でも構いません。買い物に出る必要は、たぶんありません。
受講案内に「動きやすい服装で」としか書かれていないのは、不親切だからではないのだと思います。服は、本当にその程度でいいということです。
だから、もう一度だけ。
迷うのは服じゃない、頭と手だ。
服で悩んでいた時間は、そちらに回してください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」労働災害統計(事故の型別・起因物別死傷災害発生状況) https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/anst00.html
- 日本産業車両協会「フォークリフトに起因する労働災害の発生状況 ―厚生労働省労働災害統計より―」(2025年7月) http://www.jiva.or.jp/pdf/25_SafetyDay_1-1.pdf

