簿記2級の工業簿記がわからない|勘定連絡図を1枚描けると、40点が安定する

簿記・FP

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商業簿記はなんとか進んだのに、工業簿記に入った途端に手が止まった。

そういう人はとても多いです。試しに検索窓に「工業簿記」と入れてみてください。「わからない」「苦手な理由」「勘定連絡図 わからない」——そんな言葉が並びます。つまずく場所は、みんなだいたい同じなんです。

そして厄介なのは、何がわからないのかを、自分でも言葉にできないことです。仕訳は書ける。電卓も叩ける。それなのに、問題を解き終えても手応えがない。次の問題に行くと、また初めて見た問題のように感じる。

この記事では、その「わからなさ」の正体を1つに絞ってお渡しします。

工業簿記がわからないのは、論点が難しいからではない

結論から書きます。

工業簿記でつまずくのは、原価の流れを1枚にした「地図」を持っていないからです。

その地図を、簿記の世界では勘定連絡図と呼びます。

多くの人は、テキストの順番どおりに論点をひとつずつ攻略しようとします。費目別計算をやって、個別原価計算をやって、部門別をやって、総合原価計算をやって、標準原価計算をやって……。ひとつ終えるころには、ひとつ前を忘れている。だから毎回、初見に感じる。

そうではなく、先に地図を1枚描いてしまう。そのうえで「今やっている論点は、この図の上のどこの話なのか」を毎回確認する。順番を、これだけ入れ替えます。

覚えておく言葉はひとつだけで十分です。

これは、図の上のどこの話か。

根拠1:工業簿記の論点は、ほぼ全部が1枚の図の上に載っている

勘定連絡図は、ざっくり言えば工場でお金が姿を変えていく順番です。

材料を買う。工員に賃金を払う。電気代などの経費がかかる。それらが製造中の製品(仕掛品)に吸い込まれ、完成すると製品になり、売れると売上原価になる。

箱と矢印で書くと、こうなります。

材料・賃金・経費 → (直接費はそのまま/間接費は製造間接費を経由して) → 仕掛品 → 製品 → 売上原価

ここが肝心なところです。工業簿記の論点は、この図を置き換えたり無視したりしません。図の上の、どこか一箇所を細かく見ているだけです。

  • 費目別計算=図のいちばん左(材料・賃金・経費)を細かく見る話
  • 個別原価計算=仕掛品の中身を、指図書ごとに分けて見る話
  • 部門別原価計算=製造間接費を仕掛品に流し込む前に、部門で仕分ける話
  • 総合原価計算=仕掛品の中身を、完成品と月末仕掛品にどう分けるかの話
  • 標準原価計算=同じ図に「予定の金額」をもう一本流して、実際との差を見る話

論点が5つあるのではありません。1枚の図の上に、見どころが5箇所あるだけです。この見え方に変わると、新しい論点に入ったときの「また知らないものが出てきた」という感覚が、かなり減ります。

正直に補足しておくと、例外もあります。直接原価計算やCVP分析(損益分岐点の計算)は、原価の流れを追う話ではなく、利益がどう動くかを別の角度から見る話です。ここだけは図の外側だと割り切ってください。逆に言えば、例外はその程度しかありません。

根拠2:工業簿記の40点は、商業簿記の失点を吸収する土台になる

配点を確認します。日商簿記2級は100点満点で、70点以上が合格です。

  • 第1問〜第3問(商業簿記)=各20点、合計60点
  • 第4問(工業簿記)=28点
  • 第5問(工業簿記)=12点

工業簿記は40点。商業簿記より少ないので、後回しにされがちです。ところが受験者の実感としてよく語られるのは、「工業簿記のほうが安定させやすい」ということです。

理由は範囲の広さにあります。商業簿記は論点が多く、連結会計のように重い出題も混ざります。一方で工業簿記は範囲が狭く、出題のパターンも限られている。だからこそ、地図さえ手に入れば得点が読める科目になります。

ここが戦略上の分かれ目です。工業簿記40点のうち30点台を安定して確保できるなら、合格まで残り30点台。商業簿記で1つ大きく落としても、まだ手が残ります。逆に工業簿記が読めないままだと、毎回商業簿記の出来次第という、運任せの受験になってしまいます。

工業簿記は「捨てない科目」ではなく、「先に固める科目」です。

根拠3:図は、思考の手間そのものを減らす(Larkin & Simon 1987)

「図を描くのは面倒だし、時間がもったいない」と感じるかもしれません。そこには、はっきりした反論があります。

認知科学に、ラーキンとサイモンが1987年に発表した有名な論文があります。タイトルは「なぜ図は(時に)1万語に値するのか」(Cognitive Science, 11, 65-99)。同じ情報を文章で持つ場合と図で持つ場合を比べ、図のほうが問題解決に有利になる理由を分析したものです。

要点はこうです。文章は情報が一列に並んでいるので、必要な情報を探すのに手間がかかります。一方、図は情報が位置で整理されているので、関係するものが物理的に近くにまとまっている。だから探す手間が減り、必要な判断がその場でできる。

工業簿記の問題文を思い出してください。「月初仕掛品」「当月投入」「完成品」「月末仕掛品」——これらが文章として並んでいると、頭の中で毎回組み立て直すことになります。ところが図が頭に入っていれば、問題文の数字を図のどこに置くかだけの作業になる。

図を描くのは、遠回りではありません。毎回発生していた組み立て直しの手間を、先にまとめて払っておくということです。

図の上で位置を言えるようになると、40点が安定する

——今までのあなた。

総合原価計算の章に入りました。前にやった個別原価計算とのつながりが見えません。解き方が違うので、まったく別の単元だと感じます。テキストの解説どおりに手を動かして、答えは合った。でも、なぜその式なのかは説明できない。次の問題では、また同じところで止まる。

——地図を持ったこれからのあなた。

問題を読む前に、まず白紙に4つの箱を描きます。材料、仕掛品、製品、売上原価。それから問題文を読み始める。数字が出てくるたびに、図のどこの話かを確かめながら置いていく。

これは仕掛品から製品に移るところの話だな。

そう言えた瞬間、その問題はもう半分解けています。総合原価計算も標準原価計算も、同じ図の、違う場所を見ているだけだと分かるからです。

そして次に新しい論点が出てきたときも、あなたはもう身構えません。「これも、あの図のどこかの話だ」と分かっているからです。知らない論点が減るのではなく、知らない論点への向き合い方が変わる。これが地図を持つということです。

なお、工業簿記の考え方そのものが最後まで腹に落ちない場合は、独学にこだわらず通信講座などで一度説明を受けてしまうのも手です。つまずいている場所が1箇所だと分かっているなら、人に聞くのがいちばん速いことも多いからです。

今日、白紙に4つの箱を描いてください

テキストを見ながらで構いません。何も見ずに描ける必要は、今日はありません。

紙の左に「材料・賃金・経費」、真ん中に「仕掛品」、右に「製品」、いちばん右に「売上原価」。この4つを書いて、矢印でつなぐ。それだけです。1分あれば終わります。

そして明日から、問題を解くたびに一度だけ手を止めて、こう言ってみてください。

これは、図の上のどこの話か。

工業簿記は、論点が難しいのではありません。地図なしで歩かされていただけです。地図は、あなたが1分で描けます。

参考文献・出典

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