標準原価計算に入って、差異分析で止まった。
検索すると出てくるのは「覚え方」「ボックス図」「シュラッター図」。図の描き方を覚えて、公式を覚えて、それでも次の問題ではどっちに実際単価を掛けるんだったかで手が止まる。
先に結論を書きます。
差異分析は、覚えるものではありません。
正確に言えば、覚えようとするから崩れます。差異分析はもともと暗記のための計算ではなく、説明のための道具だからです。この記事では、その一点だけをお渡しします。
差異分析は「計算」ではなく「説明」のための道具
標準原価計算というのは、原価の流れの図に「予定の金額」をもう一本流して、実際との差を見る仕組みです。
ここで大事なのは、差が出ること自体は目的ではないということです。「予定より20万円多くかかりました」だけでは、誰も何もできません。知りたいのは、その先です。
単価のせいか、量のせいか。
この記事で覚えていただきたいのは、この一言だけです。公式もボックス図も、全部この一言から導けます。
根拠1:分けるのは、動かす相手が違うから
なぜ、わざわざ価格差異と数量差異に分けるのでしょうか。合計の金額だけ分かればよさそうなものです。
理由は、それぞれ責任を持つ部門が違うからです。
- 価格差異=材料の仕入単価がズレた分。原因は市場価格の変動や、購買部門の仕入のやり方。製造現場には、どうにもできません
- 数量差異=材料の使用量がズレた分。原因は歩留まりの悪化、ムダ、作業ミス。こちらは製造現場が改善できます
つまり差異を分けるのは、誰が動けばこれが直るのかを決めるためです。価格差異が大きいなら購買部門と交渉や調達計画の話をする。数量差異が大きいなら製造部門と工程の話をする。分けずに「20万円オーバーしました」とだけ言えば、動くべきでない人が責められることになります。
ここを押さえると、公式が「覚えるもの」から「そうなるしかないもの」に変わります。
参考:原価差異分析における責任部門の考え方(mcframe)
根拠2:「どっちに実際を掛けるか」も、意味で決まっている
差異分析でいちばん多い迷いが、これだと思います。
- 価格差異 =(標準単価 − 実際単価)× 実際数量
- 数量差異 = 標準単価 ×(標準数量 − 実際数量)
なぜ片方は実際数量で、もう片方は標準単価なのか。丸暗記すると、必ずどこかで逆になります。
意味で考えると、こうです。
数量差異は「量のズレだけ」を取り出したい。だから単価は動かしてはいけません。単価まで実際の数字にしてしまうと、単価のズレが混ざり込んで「量のせいでいくら増えたのか」が分からなくなる。だから単価は標準(基準値)で固定する。
価格差異は「単価のズレ」を見たい。その単価のズレは、実際に買った(使った)量の分だけ効いてきます。1個あたり10円高く買っても、1個しか買っていなければ影響は10円です。だから実際数量を掛ける。
この考え方は、労務費でもそのまま使えます。賃率差異が「単価」の話、時間差異が「量」の話。名前が変わっただけで、構造は同じです。だから覚える公式が増えているのではなく、同じ1つの発想を使い回しているだけなんです。
有利差異・不利差異も同じで、標準より実際のコストが少なければ有利、多ければ不利。符号を覚えるのではなく、得したのか損したのかを考えれば出ます。
根拠3:理解して覚えたものは、崩れにくい(Katona 1940)
「そうは言っても、試験は時間との勝負だから、結局は暗記のほうが速いのでは」——そう思うかもしれません。
ここには古典的な研究があります。心理学者のジョージ・カトナが1940年に発表した『Organizing and Memorizing』(Columbia University Press)です。カードやマッチ棒を使った実験で、丸暗記した群と、仕組みを理解して覚えた群を比べました。
結果はこうでした。理解して覚えた群のほうが時間が経っても忘れにくく、しかも少し形を変えた問題に応用できたのです(この結果は1953年にヒルガードらが追試でも確認しています)。
差異分析は、まさにこれが起きる場所です。丸暗記すると、材料費から労務費に変わっただけで崩れる。製造間接費のシュラッター図が出てきたら、また一から覚え直しになる。けれど「単価のせいか、量のせいか」で理解していれば、形が変わっても同じ道具が使えます。
暗記のほうが速いのは、最初の1回だけです。
「単価か、量か」と言えるようになった人の強み
——今までのあなた。
問題を読んで、まずボックス図を思い出そうとします。縦が単価で、横が数量。……どっちだったか。内側が標準で、外側が実際。……逆だったかもしれない。図を描き直しているうちに時間が過ぎて、結局解答を見る。理解した気になって次の問題へ進み、また同じところで止まる。
——「単価のせいか、量のせいか」で考えるこれからのあなた。
問題を読んだら、計算より先に一度だけ言います。「これは単価の話か、量の話か」。単価の話なら、実際に使った量の分だけ効く。量の話なら、単価は基準値で固定する。そう決まっているので、図は思い出すのではなく、その場で組み立てられます。
これは量のほうだから、単価は標準で押さえるんだったな。
少し、私自身の話をさせてください。
私はプロジェクトのマネジメントが本業で、工場の原価計算をしていたわけではありません。それでも、この切り分けは実務でずっと使ってきました。
あるプロジェクトで、コストが見積りを超えたことがあります。原因は2つありました。ひとつは、手配していた機器が使えず、別の機器を手配し直したこと。もうひとつは、仕様変更で工数が増えたのに、お客様からの増額が得られなかったことです。
このとき私は、この2つを「予算オーバー」とひとまとめにせず、原因を分けて整理していました。簿記の言葉は使っていませんでしたが、やっていたのは同じ切り分けです。前者は買うものが変わった話=単価側。後者は作業量が増えた話=量側。
分けておいて、いちばんよかったことは何か。なぜコストオーバーしたのかを、説明しやすかったことです。
これは大きな違いでした。「工数が増えました」とだけ報告すれば、現場の効率が悪かったように聞こえます。でも本当の原因は仕様変更で、現場は悪くない。分けて示せたから、責める話ではなく次にどうするかの話にできました。
差異分析が試験で問われているのも、まさにこれです。金額を出すことではなく、何のせいでズレたのかを言えること。
計算を始める前に、一度だけ口に出してください
次に差異分析の問題を解くとき、電卓を持つ前に一度だけ手を止めてください。そして、こう言ってみてください。
これは、単価の話か、量の話か。
それだけで、掛けるべき数字が決まります。公式を思い出す必要はありません。思い出せなくても、その場で作れるようになるからです。
差異分析は、簿記2級の中でも「覚えることが多い」と言われる論点です。でも本当は逆で、覚えることが一番少ない論点かもしれません。単価か、量か。分けるのは、その2つだけなのですから。
差異分析でつまずくと、そもそも何のためにこれをやっているのかが分からなくなります。そんなときは、お金の側から見ておくと戻ってきやすいかもしれません。そもそも資格でお金が増える道は2本あり、性質が正反対です。合格時に1回だけ出る一時金は年収に残らず、毎月の給与に乗る資格手当だけが積み上がります。簿記2級にどちらが出るのかは、会社の給与規程だけが決めています。 → 資格手当がない会社|もらったのは25万円、上がらなかったのは月給
参考文献・出典
- 日本商工会議所「簿記2級 試験科目・注意事項」 https://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/class2/exam
- Katona, G. (1940). Organizing and Memorizing. Columbia University Press.(意味づけて覚えることの効果)

