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簿記3級の勉強を始めようとして、電卓のところで止まっていませんか。
検索すると、おすすめランキングがいくらでも出てきます。12桁がいい、早打ち対応がいい、カシオかシャープか。読めば読むほど候補が増えて、決まらない。しかもその裏には、もっと嫌な不安があります。
買ったものが、試験当日に使えなかったらどうしよう。
この不安は正しいものです。日商簿記の試験には、持ち込める電卓の条件がはっきり決められていて、条件を外れたものはその場で使えません。
ただし、条件そのものはとても単純です。先に結論を書きます。
電卓は「足し算」ではなく「引き算」で選ぶ
この記事でお渡しするのは、一つだけです。
禁止は4つ。あとは打ちやすさ。
電卓選びで多くの人がやっているのは、足し算です。あの機能もある、この機能もある、こっちのほうが高機能だ——そうやって比べているから決まりません。
ところが簿記の電卓は、この買い物だけは話が逆になります。
機能が多いほど、試験では不利になる。それどころか、ある機能が付いているだけで持ち込めなくなります。普段の買い物の感覚がそのまま通じない、珍しい買い物なのです。
だから、やることは引き算です。禁止されている機能を外す。それだけで候補はほとんど絞れます。
根拠1:日商簿記が禁止しているのは、たった4つ
商工会議所が公表している試験当日の規定は、こうなっています。
まず、持ち込めるのはそろばんか電卓のどちらか1つ。そして電卓は「計算機能(四則演算)のみのもの」に限る、とされています。
そのうえで、持ち込みが認められない機能が4つ挙げられています。
- 印刷(出力)機能
- メロディー(音の出る)機能
- プログラム機能(関数電卓などの多機能な電卓、売価計算・原価計算等の公式の記憶機能があるもの)
- 辞書機能(文字入力を含む)
逆に、次の機能は「プログラム機能に該当しないもの」として使ってよいと明記されています(音が出ないものに限ります)。
- 日数計算/時間計算/換算/税計算/検算
ここまでが公式のルールです。読んでみて、意外に感じませんでしたか。禁止されているのは4つだけで、しかもそのうち3つ(印刷・メロディー・辞書)は、家電量販店の電卓売り場に並ぶ普通の電卓には、まず付いていません。
実質的に気をつけるのはプログラム機能=関数電卓を持って行かないこと、ほぼこれ一点です。
そして、桁数の規定は存在しません
もう一つ、はっきりさせておきたいことがあります。
「簿記 電卓 何桁」で検索している人が多いのですが、公式のルールに桁数の指定はありません。8桁でも10桁でも12桁でも、規定違反にはならないということです。
つまり桁数の話は、ルールの話ではなく、使い勝手の話です。ここを混同していると、「12桁じゃないと受験できないのでは」という要らない不安を抱えることになります。
根拠2:試験で使う操作は、驚くほど限られている
では、ルールを満たしたうえで何を基準に選ぶのか。打ちやすさです。理由は、簿記の計算の中身にあります。
簿記の試験でやっているのは、複雑な数式を解くことではありません。金額を大量に足したり引いたりすることです。合計を出す、差額を出す、それを繰り返す。使うキーは四則演算と、あとはメモリー(M+、M−、MR)やGT(総合計)くらいのものです。
つまり電卓に求められるのは計算能力ではなく、速く正確に打てることです。ここが分かると、見るべき点が3つに絞れます。
- 早打ち対応(キーロールオーバー):前のキーから指が離れる前に次を押しても取りこぼさない機能。連続入力が多い簿記では効きます
- キーの大きさと本体の安定感:小さすぎるキーは隣を押します。軽すぎる本体は打つとずれます
- 表示桁数:12桁なら1,000億円台まで表示できます(10桁だと10億円台まで)
桁数について補足します。3級で扱う金額であれば、正直10桁でも足りる場面がほとんどです。ただし2級まで進むつもりなら、最初から12桁を選んでおくと買い直しが要りません。数百円の差で先まで使えるなら、そちらが得だと思います。
条件を満たす定番として名前が挙がるのは、この3つです。
- カシオ JS-20WKA:12桁・早打ち対応。実務でも使われる定番で、キーの打鍵感と本体の安定感に定評があります
リンク - シャープ EL-N942X:12桁・早打ち対応。簿記向けとして長く支持されているモデル。カシオとはキー配列が違うので、好みが分かれます
リンク - 低価格帯で選ぶなら:カシオ MW-12GT など、12桁で1,000円台のモデルでも試験には十分対応できます
リンク
どれを選んでも構いません。大事なのは、選んだあと同じ1台を使い続けることです。キー配列は機種によって違うので、途中で替えると指が覚え直しになります。
根拠3:候補が拮抗するほど、決定は先送りになる(Tversky & Shafir 1992)
「そんなに単純な条件なら、なぜ自分はこんなに迷っているのか」と思われるかもしれません。それは意志が弱いからではありません。
心理学者のトベルスキーとシャフィアが1992年に発表した研究があります(Psychological Science, 3, 358-361)。人が「決められなくなる」のはどんなときかを調べたもので、鍵になったのは選択肢の多さではなく、候補どうしの拮抗でした。
魅力的な商品を1つだけ見せられた人は、多くがその場で「買う」を選びます。ところが、そこに同じくらい良い候補をもう1つ並べるだけで、「どちらも今は選ばない/もっと調べてから決める」に流れる人がはっきり増えました。決断を止めているのは、選べる数ではなく「甲乙つけがたい」という状態そのものだということです。
電卓選びで起きているのは、まさにこれです。レビューサイトを回れば回るほど候補は増え、比較軸も増える。情報を集めるほど決まらなくなるという構造に入っています。
だから必要なのは、もっと詳しい比較記事ではありません。候補を削る基準です。禁止4つを外す。打ちやすさで見る。それで十分に絞れます。
「禁止は4つ」と分かった人が、次にすること
——今までのあなた。
ランキング記事を3つ目まで読み終えました。どれも違うモデルを1位にしています。カートには2つ入れたまま、まだ確定していません。電卓が決まっていないので、テキストもまだ開いていません。
——引き算で選ぶ、これからのあなた。
関数電卓ではないことを確認します。音は鳴らない。印刷もしない。それで条件はクリアです。あとは12桁で、キーが大きくて、指が乗せやすいもの。5分で決まります。
これで大丈夫。あとは打つだけだ。
そして翌日から、あなたが慣れていくのは比較表ではなく、キーの位置になります。
少し、私自身の話をさせてください。
私は簿記を受けていませんが、QC検定2級とFP3級で電卓を使いました。どちらも試験用に買いました。
選んだ基準は、はっきりしています。シンプルなもので、ミスなく打ちやすいもの。高機能なものは最初から見ていませんでした。理由は「基本的なものであれば、規定に引っかからないだろう」と考えたからです。
正直に書くと、当時の私は規定を1項目ずつ確認したわけではありません。勘です。結果として問題なく使えましたが、今回この記事のために公式のルールを読み直して、その勘が当たっていた理由がはっきりしました。禁止されているのは、まさに「基本的でないもの」だけだったのです。
あなたは、その勘に頼る必要がありません。4つを外す。それだけで、当日に慌てることはなくなります。
今日、手元の電卓を1台見てください
最後にやってほしいことがあります。買う前に、確認です。
家か職場に電卓はありませんか。あるなら、それを手に取って4つを確かめてください。
- 紙に印刷する機能が付いていないか
- 音が鳴らないか
- sin や log のキーがないか(関数電卓でないか)
- 文字入力・辞書機能がないか
この4つが付いていなければ、その電卓で勉強を始めて構いません。買い直す必要はありません。使ってみて打ちにくいと感じたときに、初めて買えばいい話です。
ただし一つだけ守ってほしいことがあります。本番と同じ電卓で練習してください。スマホの電卓アプリで問題を解くのは、やめたほうがいいです。試験会場にスマホは持ち込めませんし、指が覚えるのは画面ではなくキーの位置だからです。
電卓が決まったら、次はテキスト選びと勉強の順番です。そちらは、じっくり比べる価値があります。
けれど電卓は違います。ここで何日も使うのは、もったいない。4つを外して、打ちやすいものを選んで、今日から打ち始めてください。
参考文献・出典
- 日本商工会議所「簿記 試験科目・注意事項」(電卓の規定) https://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/class3/exam
- Tversky, A., & Shafir, E. (1992). Choice under conflict: The dynamics of deferred decision. Psychological Science, 3(6), 358-361. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.1992.tb00047.x

