「簿記2級 年収」で検索すると、金額はいくらでも出てきます。
400万円と書いてある記事もあれば、600万円と書いてある記事もある。どちらが本当なのかも分からないまま、自分の給与明細とは関係のない数字だけが並んでいます。
そして、その数字の出どころはたいてい求人サイトの掲載給与の集計です。何十社ぶんもの幅を、たった一つの数字に潰したもの。
——ですが、潰す前の情報なら公開されています。求人票には、あなたの年収の組み立て方が全部書いてあります。資格手当がいくらかまで、金額で書いてあることがあります。
「簿記2級の平均年収」は、平均する前を見たほうが早い
平均年収の記事が役に立たないのは、数字が間違っているからではありません。あなたがその平均のどこにいるのかを、平均が教えてくれないからです。
同じ経理職でも、月給20万円の求人と月給31万円の求人があります。賞与が年6.5ヶ月分の会社と、賞与がまったく無い会社があります。それを一つにまとめた数字を見ても、自分がどちらに行くのかは分かりません。
では、潰す前の数字はどこにあるのか。
ハローワークの求人票です。2026年9月3日、職種欄に「経理」が入っている一般求人を検索すると7,327件ありました。その先頭から順に求人票を開いて、賃金欄の項目を全部読みました(この記事で使うのは47件です)。
結論から言います。簿記2級そのものが動かす金額は、思ったより小さい。そして別のところに、その20倍近い差がありました。
解決策:平均年収を探すのをやめて、求人票で自分の年収を組み立てる
求人票の賃金欄は、月額が1つ書いてあるだけの欄ではありません。
基本給・手当・固定残業代・その他の手当・昇給の前年度実績・賞与の前年度実績が、それぞれ別の欄に分かれています。読む順番さえ決めれば、求人票1枚から自分の年収の幅を自分で組み立てられます。
この記事の最後に、その順番を渡します。まず、なぜ賞与の欄が分かれ目になるのかを見てください。

根拠①:求人票には「日商簿記2級 月5,000円」と書いてある
求人票には「その他の手当等付記事項」という自由記述の欄があります。ある正社員の経理求人の、その欄の原文です。
資格手当:宅地建物取引主任者 月10,000円、
日商簿記2級月5,000円 FP2級月3,000円
その他計12の資格手当と37種の検定合格祝い金制度あり。
宅建が月10,000円、簿記2級が月5,000円、FP2級が月3,000円。同じ会社の同じ表の中に、資格ごとの金額が並んでいます。
よく「資格別の年収という公的な統計は存在しない」と言われます。それは本当です。ですが資格別の金額そのものは、求人票には書いてあります。統計に無いだけで、現物には書いてある。
ここでもう一つ、見落とせないことがあります。この求人の「必要な免許・資格」欄は「日商簿記3級 あれば尚可」でした。
採用の条件は3級で足りて、手当がつくのは2級から。この会社では、2級は「入るための資格」ではなく「入ってから効く資格」として置かれています。
資格手当のある求人は、22件のうち6件でした。書き方はばらばらです。
| 「その他の手当」欄での書かれ方 |
|---|
| 資格手当 500円~25,000円 |
| ●資格手当 10,000円~ |
| 資格手当:会社が認める保有資格×1,000円 |
| 別途資格手当あり 最大30,000円(*資格3件までが支給対象 例 簿記・宅建・コンクリート技師の資格等) |
| 資格補助(国家IT資格取得5000円~10000円)=簿記は対象外 |
| 宅建10,000/日商簿記2級 5,000/FP2級3,000 |
金額を名指しで書いていたのは、この1件だけでした。月5,000円。年にすると6万円です。
小さいと思ったでしょうか。この数字は、次の章で意味が変わります。
根拠②:同じ経理職で、賞与は1.00ヶ月分から6.50ヶ月分まであった
同じ求人票の「賞与」欄には、前年度実績が書かれています。正社員の求人で、ヶ月数で書いてあった14件を小さい順に並べます。
1.00 / 2.13 / 2.40 / 2.50 / 3.00 / 3.00 / 3.00 / 3.15 / 4.11 / 4.20 / 4.80 / 5.50 / 5.50 / 6.50
いちばん低い会社が1.00ヶ月分、いちばん高い会社が6.50ヶ月分。差は5.5ヶ月分です。
月20万円で考えると、この差はおよそ年110万円になります。
並べてみてください。
| 何が | 年でいくら動くか |
|---|---|
| 簿記2級の資格手当(月5,000円) | 約6万円 |
| 賞与5.5ヶ月分の差(月20万円の場合) | 約110万円 |
桁が2つ違います。
資格手当が意味のないものだと言いたいのではありません。「簿記2級で年収はいくら上がるか」という問いの立て方だと、110万円のほうを見落とすと言いたいのです。
実際、求人票のなかには自分で年収を書いているものもありました。
平均年齢42歳 平均勤続年数12年 年収580万円程度(手当・残業代含む)
この求人の月額は189,500円〜250,000円です。12倍しても227万円〜300万円にしかなりません。それが580万円になっているのは、賞与が5.50ヶ月分あり、住宅手当と家族手当と資格手当(500円〜25,000円)が別に乗っているからです。
月額を12倍しても、年収にはならない。
根拠③:「書いていない」のではなく、「なし」と書いてある
ここまで読んで、こう思ったかもしれません。「賞与の実績なんて、書いていない求人票のほうが多いのでは」と。
私もそう思っていました。だから数えました。47件です。
| 賞与欄 | 件数 |
|---|---|
| 前年度実績が金額かヶ月数で書いてある | 37 |
| 「賞与制度なし」と明記 | 9 |
| 「制度あり」なのに実績が空 | 1 |
| 欄そのものが空白 | 0 |
空欄は1件もありませんでした。ハローワークの求人票は、まず「制度の有無」を書かせ、「あり」ならさらに「前年度実績の有無」を書かせる作りになっています。だから空欄が出ません。
昇給も同じ構造です。25件を数えたところ、昇給制度の欄の空白も0件(あり21・なし4)。ただし「あり」の21件のうち、前年度の実績まで書いてあったのは18件でした。
そして、いちばん大事なのはここです。
47件のうち9件は「賞与制度なし」でした。パートだけの話ではありません。正社員で、昇給も賞与も「なし」と書かれた求人がありました。
つまり——書いていないのではなく、「なし」と書いてあるのを読み飛ばしていた。そして「なし」を読み飛ばすと、年収を100万円読み違えます。
もう一つ、読み違えやすい欄があります。求人票の先頭に出てくる月額と、基本給は同じ金額ではありません。
16件のうち9件で、この2つに差がありました。いちばん大きかった求人は、月額の表示が189,000円〜235,000円で、基本給は155,000円〜185,000円。差の34,000円〜50,000円は「業務手当」です。表示額の18〜21%が、基本給ではありませんでした。
なお、賞与の「◯ヶ月分」が何の何ヶ月分なのかは、求人票には書かれていません。月額と同じものだと決めつけないでください。そこは求人票を見ても分からない、と正直に書いておきます。
求人票から年収を組み立てる、5つの欄
求人票 1枚から
年収を組み立てる、5つの欄
月額を12倍しても、年収にはならない。上から順に、この5つの欄だけを読んでください。平均年収の記事より、目の前の1社について正確です。
賃金 (a+b+c)
月額の幅。自分は下限側か、上限側か。
求人票の先頭に出る月額と、基本給は同じ金額ではありません。16件のうち9件で差がありました。
基本給 (a)
①との差が手当。差が大きいほど、月額の中身が手当。
いちばん大きかった求人は、月額 189,000〜235,000円に対して基本給 155,000〜185,000円。表示額の18〜21%が基本給ではありませんでした。
その他の手当等付記事項 (d)
資格手当があるか。簿記が名指しされているか。
資格手当があったのは22件のうち6件。金額を名指ししていたのは1件だけで、日商簿記2級 月5,000円(=年6万円)。
賞与 (前年度実績)ここが一番効く
「なし」なら、年収は月額×12に近づきます。
同じ経理職の正社員求人14件。低いほうが1.00ヶ月分、高いほうが6.50ヶ月分でした。
さらに47件のうち9件は「賞与制度なし」。欄そのものが空白だった求人は0件です。書いていないのではなく、「なし」と書いてあります。
昇給 (前年度実績)
1年でいくら動くか。0円のこともあります。
25件を数えて、欄の空白は0件(あり21・なし4)。ただし「あり」21件のうち、前年度の実績まで書いてあったのは18件でした。
桁が、ふたつ違います
では、目の前の1枚で組み立ててみてください
月額 円 × 12 = 円
賞与 ヶ月分 → 円
年収の見当 = 円
例)月給21万円・賞与4.80ヶ月分の求人= 252万円 + 100.8万円 = 約353万円。
月給だけを見て「300万くらいか」と閉じていた会社です。
ここは正直に書きます。賞与の「◯ヶ月分」が何の何ヶ月分なのかは、求人票には書かれていません。月額と同じものだと決めつけないでください。そこは求人票を見ても分からない欄です。
出典:厚生労働省「ハローワークインターネットサービス」求人情報検索(2026年9月3日、職種欄に「経理」を含む一般求人7,327件のうち先頭60件の求人票を実測。件数は欄ごとに読み取れたものを数えています)
①で「自分は下限側か上限側か」と書きました。それを決めているのは資格ではなく、その求人が経験をどう要求しているかです。そこは簿記2級は転職に有利?|分かれ目は、資格の欄ではなく「必要な経験等」の欄だったに分けて書きました。
③の資格手当そのものについては、資格手当の相場のほうで扱っています。
賞与の欄から読むようになった、これからのあなた
——今までのあなた。
「簿記2級 年収」で検索する。400万円と書いてある記事を開き、次に600万円と書いてある記事を開く。どちらも「簿記2級を取れば年収アップが期待できます」で終わっている。結局いくらなのか分からないまま、タブを閉じて求人一覧に戻る。求人を開いても、見るのは月給の欄だけ。
——「賞与の欄から読む」ようになった、これからのあなた。
「月給21万か。まあ普通だな」
「——待って、賞与は。……4.80ヶ月分。前年度実績で」
「じゃあ年収は300万じゃなくて、350万くらいか。さっきの会社より高い」
月給の欄で会社を比べるのをやめて、賞与の欄で比べるようになります。同じ月給でも、年収が100万円変わることを知っているからです。
少し、私自身の話をさせてください。
私も求人票の賞与や昇給の欄は、見たことがありました。ただ「書いていない求人票のほうが多い」という印象を持っていました。
だから今回、数えてみました。47件で、空欄は1件もありませんでした。
そして9件には、はっきり「なし」と書いてありました。
書いていなかったのではなく、私が読み飛ばしていたのだと思います。月給の欄だけ見て、その下は流していた。「なし」という2文字は、書いていないのと同じに見えてしまう。
この記事のタイトルが「資格手当ではなく賞与の欄だった」になったのは、そのためです。
幅のどこに入るかは、求人票には書いていない
5つの欄を読めば、その会社が出せる年収の幅は分かります。
ただし、求人票には書いていないことが一つあります。あなたがその幅のどこに入るかです。
月額190,000円〜350,000円という求人があったとして、あなたが190,000円で入るのか、260,000円で入るのかは、求人票のどこにも書いてありません。それを決めるのは、あなたの経験と、その会社がいまどのポジションを埋めたいかです。
これは自分では調べられません。求人票を毎日読んでいる人に聞くのが早い。
経理に特化した転職エージェントには、こう聞けば済みます。
簿記2級と、いまの自分の経験で、月額の幅のどのあたりを見ればいいですか
資格を取り終えてからでないと聞けない質問ではありません。いま勉強中でも聞けます。そして勉強中に聞いたほうが、はっきりします。
- 幅の上のほうを狙えるなら、2級まで進む理由が金額で分かる
- いまの経験だと下限に近いなら、資格より先に埋めるものが見えてくる
「簿記2級の年収は◯万円です」と書いてある記事は、あなたの話をしていません。求人票はあなたの話をしています。そして足りない最後の1行は、聞けば埋まります。
資格手当ではなく、賞与の欄から。そして、幅のどこに自分がいるのかを。
参考文献・出典
- 厚生労働省「ハローワークインターネットサービス」求人情報検索(2026年9月3日、職種欄に「経理」を含む一般求人7,327件のうち先頭60件の求人票を確認。賃金・手当・昇給・賞与の各欄を実測) https://www.hellowork.mhlw.go.jp/
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「賃金構造基本統計調査 調査計画」(調査事項に資格は含まれません) https://www.e-stat.go.jp/surveyplan/p00450091001

