製造業の資格手当|法律が決めているのは、金額ではなく人数だった

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「製造業 資格手当」で検索して、ここにたどり着いたのだと思います。

会社は資格を取れと言います。取れ、早く取れ、次は何を取るんだ、と言います。それで取りました。休みの日に机に向かって、受験料も払って、受かりました。

給与明細は、1円も変わりませんでした。

しばらくして、事務方には資格手当がいくつかあるらしい、と聞きます。こちらは現場です。危険物も、玉掛けも、フォークリフトも、現場のほうが持っている。それなのに手当がついているのは、向こうだった。

そこで、うちの会社がおかしいのだろうか、と思い始めます。それとも、自分の資格が大したものではないのだろうか。

先に、いちばん知りたいであろうことに答えます。手当がつかないのは、あなたの資格が軽く見られているからではありません。むしろ逆で、あなたが取ったのは、会社が置かなければ工場を動かせない種類の資格です。

ここでお渡しするのは、相場の数字ではありません。あなたの資格がいま会社の中でどう扱われているかを、今日その場で確かめる方法です。

手当がつくかどうかを分けているのは、席が空いているかどうか

覚えるのはこれだけです。

法律は「何人置け」とは言うが、「いくら払え」とは一言も言っていない。

会社が資格を取れと言うのは、あなたの給料を上げたいからではありません。法律が、事業場ごとに有資格者を置けと命じているからです。置かなければ、その工場は操業できません。

つまり、あなたが取った資格には席があります。ただし席の数は決まっていて、そして——ここがいちばん大事なところですが——その席がすでに埋まっていることがあります

埋まっている席に、二人目の手当は出ません。会社にとって、二人目はまだ使っていない予備だからです。

なぜそう言い切れるのか。理由を3つ挙げます。

根拠1:法律が名指ししているのは、製造業のほうだった

労働安全衛生法に、安全管理者という役職があります。

事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから……安全管理者を選任し……なければならない。(第11条第1項)

「政令で定める業種」と書いてあります。ではその政令を開くと、こうなっています。

労働安全衛生法施行令第3条は、安全管理者を置くべき事業場を、第2条の第1号または第2号の業種で常時50人以上と定めています。そして第2条の第2号に並んでいるのが、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業——という顔ぶれです。第1号は林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業。

そして第3号に「その他の業種」があります。事務所仕事の多くはここに入ります。

第3号の業種には、安全管理者を置く義務がありません。

もう一度書きます。あなたの職場に「資格を取れ」という圧力があって、事務方にそれがないのは、上司の性格の違いではありませんでした。法律が、製造業を名指しして人を置けと命じているからです。

ここで、さっきの「事務方には手当があった」という話が、少しねじれて見えてきます。事務方の資格は、会社が置かなくてもいいものでした。置かなくていいものを取ってもらうには、動機がいります。だから手当をつける。

現場の資格は、置かなければ操業できないものです。動機をつけなくても、会社は取らせにいきます。取らせなければ、困るのは会社のほうだからです。

必要とされている側に、お金がつかない。ねじれているようですが、制度としてはこれで筋が通っています。

根拠2:決まっているのは人数で、金額ではない

法律が席の数まで決めていることを、具体的に見ておきます。

衛生管理者は、事業場の規模ごとに何人置くかが表になっています。常時50人以上200人以下なら1人。200人を超え500人以下で2人。500人超1,000人以下で3人。1,000人超2,000人以下で4人。2,000人超3,000人以下で5人。3,000人を超えると6人(労働安全衛生規則第7条第1項第4号)。

作業主任者のほうは、作業の種類で決まります。高圧室内作業、アセチレン溶接、ボイラーの取扱い、放射線業務——労働安全衛生法施行令第6条に、作業主任者を選任すべき作業が31種類並んでいます。

ここまでは、どれも人数と種類の話です。

では、いくら払えという条文はどこにあるのか。ありません。労働安全衛生法にも、その施行令にも、規則にも、手当の額を定めた規定は存在しません。

並べると、非対称がはっきりします。

  • 置くこと → 法律が会社に義務づけている(人数まで指定して)
  • 報いること → 法律は何も言っていない

会社は、有資格者を置くところまではやらされています。その先は、やってもやらなくてもいい。

なお、法律が命じていないだけで、会社が自分で規程に書けば手当は発生します。何割の会社が実際に出しているのか、規程に定めがあるのに払われない場合はどうなるのかは、資格手当がない会社|もらったのは25万円、上がらなかったのは月給のほうに書きました。この記事では、席の側の話を進めます。

それから、そもそも「一人いればいい資格」と「全員が持っていなければならない資格」で扱いが違う、という話はフォークリフトに手当がつかない理由|受ければ受かる資格は、希少にならないに書いてあります。あちらは、その一人になれる資格かどうかまでを書きました。

この記事は、その続きです。その一人の席が、もう埋まっていたら?

根拠3:席が埋まっていた私に、会社がくれたもの

少し、私自身の話をします。

私は危険物取扱者の甲種を持っています。乙種のように類が分かれておらず、全部の類を扱える資格です。試験もそれなりに準備が要りました。

受かって、職場に報告しました。何かが起きるだろうと思っていました。

危険物保安監督者には、なりませんでした。別の人がすでにいたからです。

代わりに、しばらくして役がつきました。「化学物質アドバイザー」という名前でした。

その役で、特別な仕事をしたことはありません。手当もつきませんでした。何をする役なのか、いまでもはっきりとは分かっていません。

長いあいだ、これは自分の資格が中途半端だったからだと思っていました。違いました。条文の側を見ると、あの役が何だったのかが分かります。

法定の役に選任されるときには、必ず手続きがついてきます。

  • 選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること(労働安全衛生規則第4条第1項第1号ほか)
  • 選任したら、氏名・生年月日・選任年月日・経歴の概要を所轄の労働基準監督署長に報告すること(同規則第4条第3項)
  • 作業主任者なら、氏名と職務を作業場の見やすい箇所に掲示して関係労働者に周知すること(同規則第18条)
  • 危険物保安監督者なら、定めたときも解任したときも市町村長等に届け出ること(消防法第13条第2項)

私の「化学物質アドバイザー」には、このどれもありませんでした。講習もなく、届出もなく、掲示もなく、口頭で言われただけです。

つまりあれは、法律が要求した席ではありませんでした。会社が社内で作った名前です。

そして、そうであるなら、仕事も手当もなかったことのつじつまが合います。要求されていない席に、払う理由は発生しません。

私の甲種は、会社にとって役に立たなかったわけではないはずです。監督者が辞めれば、あるいは施設が増えれば、座る席ができる。ただ、そのときの私は予備でした。予備に月々の値段はつきません。

ここは私の見立てですが、会社が名前だけの役をくれたのは、悪意ではなかったと思っています。取れと言った以上、何もしないわけにはいかなかった。ただ、渡せる席がなかった。それだけのことだったのだろうと。

必要とされているあなたの、少し先の未来

——今までのあなた。

給与明細を開いて、いちばん下まで目で追って、閉じます。合格通知をもらった日のことは、もう誰も話題にしません。うちの会社は資格を評価しない、と言いながら、次に何を取ろうかとやっぱり考えている。自分の資格は、この会社では大したものではないのだと、いつのまにか思い込んでいます。

——席の見え方が変わった、これからのあなた。

掲示を見に行きます。作業主任者の名前が並んでいます。危険物保安監督者の名前も知っています。そこに書いてある資格が、この工場が止まらないために必要な資格です。

「なんだ、俺が取ったやつばっかりじゃないか」

そう気づいたとき、話が反転します。あなたは評価されていなかったのではなく、その席がたまたま埋まっていただけでした。

「結局、予備ってことだろ」

そう言いたくなるのは分かります。でも、予備なのはこの事業場の中でだけです。同じ資格で、席が空いている会社があります。そこでは、あなたは予備ではなく本命です。

同じ紙切れが、置かなければならない会社では義務の充足として数えられ、探している会社では採用の理由として数えられます。数え方が違うだけで、あなたの資格は動いていません。

今日できること:掲示板と、直近の昇給額を見る

2つあります。順番にやってください。

1つ目。職場の掲示を見る。

作業主任者の氏名と職務は、作業場の見やすい箇所に掲示されているはずです(労働安全衛生規則第18条)。安全管理者や衛生管理者を選任していれば、労働基準監督署への報告も済んでいます。

そこに自分の名前があるか。ないなら、誰の名前があるか。

名前が載っているなら、あなたはこの工場の操業を支えている一人です。載っていないなら、あなたの資格はいま予備です。どちらなのかを、まず確かめてください。

2つ目。直近の昇給額を見る。

去年いくら上がったか。その前の年はいくらだったか。資格を取った年と取らなかった年で、差があったか。

手当という項目がなくても、業務が変わって昇給額が変わることはあります。実際、そうやって返ってきている人もいます。

ここまで見て、返ってきていたなら、この会社にいてください。必要とされていて、金額でも返ってきているなら、動く理由がありません。

返ってきていなかったなら、そのときは考えていいと思います。必要とされているのに、必要とされている分が金額になっていない、ということですから。

席が空いている会社を、自分で見つけるのは難しいです。求人票に「危険物保安監督者が不在です」とは書かれません。だから、製造業の中身が分かる相手に聞くのが早い。メーカーズジョブに相談すると何がわかるか|上がらないなら、今の職場でいいに、何が分かって何が分からないかを書きました。

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最後にもう一度だけ。

手当がつかなかったのは、あなたの資格が軽かったからではありません。あなたが取ったのは、法律が「置け」と命じている側の資格です。ただ、その席に先客がいた。

席は、この工場に一つだけではありません。

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参考文献・出典

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