ITパスポートは意味ない?|資格は要らなくても、範囲は要る

ITパスポートは意味ない? 資格は要らなくても、範囲は要る IT資格

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「ITパスポート 意味ない」で検索して、ここにたどり着いたのだと思います。

正直に言います。言われている理由は、だいたい当たっています。

ただ、この記事でお伝えしたいのは「だから取るな」でも「いや、意外と役に立つ」でもありません。「意味ない」という言葉が、途中ですり替わっているという話です。

「意味ない」と言われる理由は、ほとんど当たっている

まず、批判の中身を正面から並べます。ごまかしません。

  • 合格率が5割前後で、希少性がない。持っている人が珍しくないので、それだけで差がつく資格ではありません
  • 四肢択一100問だけ。手を動かして何かを作れることの証明にはなりません
  • 非IT系の中途採用では、履歴書に書いてもほぼ加点されない。実務経験のほうが先に見られます
  • 社内に持っている人がいない。評価する物差しがそもそも存在しない職場は多いです

これらは事実です。ITパスポートは、合格した翌日から給料や肩書きが動く資格ではありません。

ここまで読んで「じゃあ、やっぱり要らないな」と思ったなら、その判断は正しいと思います。資格として見るかぎり、ITパスポートは弱い。

でも、そう結論するとき、多くの人がもうひとつ別のものを一緒に捨てています。

解決策:ITパスポートは「取る」と「学ぶ」を分けていい

この記事でお渡ししたいのは、これひとつです。

資格は要らなくても、範囲は要る。

ITパスポートには、顔が2つあります。ひとつは、合格証書がもらえる国家試験という顔。もうひとつは、ITが本業ではない社会人が知っておくべき知識の一覧という顔です。

「意味ない」という批判が刺さっているのは、前者だけです。後者はまったく別のものなのに、前者を捨てるときに、たいてい一緒に捨てられています。

だから、すでに非IT系で働いている人には、こういう選び方があっていい。

受験を申し込まず、出題範囲だけを地図にして、自分に要る分野から読む。

受験手数料7,500円(税込)も、試験会場に行く半日も、要りません。出題範囲とシラバスはIPAが公開していて、誰でも無料で見られます。

根拠①:公式が挙げるメリット3つのうち、資格として効くのは1つだけ

試験を実施しているIPA(情報処理推進機構)は、公式サイトで「合格のメリット」を3つ挙げています。

  • メリット1 試験勉強を通じ、幅広い分野の基礎知識が取得可能
  • メリット2 組織のIT力向上に! コンプライアンス強化に!
  • メリット3 就職、進学等で役立つ国家試験

並べ直すと、はっきりします。メリット1と2は「勉強を通じて身につく知識」の話で、合格証書の話ではありません。資格そのものが効くと言っているのは、メリット3だけです。

しかも、メリット1にはこう書かれています。

パソコンの操作に関する知識ではなく、情報システム、ネットワーク、データベースなどITの基礎知識が体系的に身につくことで、顧客、社内の情報システム部門、IT企業との円滑なコミュニケーションに役立ちます。

主語に注目してください。「合格することで」ではなく、「基礎知識が体系的に身につくことで」です。IPA自身が、価値の置き場所を合格証書ではなく知識のほうに置いています。同じページには「社内の情報システム部門とのコミュニケーションが円滑になった」という受験者の声も紹介されています。

そしてメリット3の中身は、就職活動での自己アピールと、大学の入試優遇制度・単位認定です。つまり資格として効く相手は、これから就職する人・進学する人だと、公式が書いている。

裏を返せば、すでに働いている非IT系の会社員にとっては、3つのうちメリット3だけが薄い。「意味ない」という声の正体は、たぶんこれです。3分の1が効かないことを、3分の3が効かないと言い換えてしまっている。

根拠②:合格を目指した瞬間、学ぶ順番は自分の必要ではなくなる

次は制度の話です。ITパスポートの合格基準は、少し独特です。

総合評価点600点以上を取ることに加えて、3つの分野それぞれで300点以上を取らなければなりません。どれかひとつでも下回れば、総合点が足りていても不合格です。

分野 出題数 内容
ストラテジ系 35問程度 企業活動、法務、経営戦略、システム戦略
マネジメント系 20問程度 システム開発、プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント、システム監査
テクノロジ系 45問程度 基礎理論、コンピュータ構成、ネットワーク、データベース、セキュリティ

ここが分岐点です。

「受かる」ことを目的にすると、興味のない分野を捨てられません。分野別の足切りがあるからです。あなたが本当に知りたいのがネットワークやサーバーの話だったとしても、経営戦略でも、システム監査でも、同じように点を取る必要がある。学ぶ順番が、自分の必要ではなく足切りに支配されます。

一方、「知りたい」を目的にすると、順番は自由です。いちばん困っている分野から読める。読まない分野があってもいい。途中でやめても、読んだところは残ります。

そして出題範囲は、9つの大分類・23の中分類にきれいに整理されています。ネットワークは中分類22、データベースは21、コンピュータ構成要素は15、セキュリティは23。この一覧そのものが、非IT系の社会人にとってのITの目次です。試験を申し込まなくても、この目次は手に入ります。

受験料を払うと手に入るのは、目次ではなく採点です。目次のほうは、最初から無料で置いてあります。

根拠③:会話についていけないのは、理解力ではなく「共通基盤」がないから

エンジニアとの会話で置いていかれるとき、多くの人はまず自分の頭の回転を疑います。ですが、原因はたぶんそこではありません。

心理学者のクラークとブレナンは1991年の論文で、会話は「共通基盤(common ground)」——互いに「相手も知っているはずだ」と見なせる知識——の上で成り立っていると整理しました。そして共通基盤があるほど、少ない言葉で通じるようになります(最小協調努力の原理)。

エンジニアが「あそこはまだオンプレのままなので」と一言で済ませるとき、彼らは大量に省略しています。相手も知っている前提だからです。共通基盤がないと、その省略された部分が全部そのまま穴になる。会話が止まるのは、能力の差ではなく、前提の差です。

そして、ここが大事なところです。その前提は、聞いて意味がわかれば足ります。自分で説明できるようになる必要はありません。

語彙の研究では、読んだり聞いたりして意味がわかる語彙(受容語彙)は、自分で使える語彙(産出語彙)より先に、そして大きく育つことが繰り返し確認されています。受容が先、産出があと。この順番は、専門用語でも変わりません。

読むだけの学習は、まさに受容語彙を育てる学習です。会話についていくという目的に対しては、読むだけで足ります。問題を繰り返し解くのは、試験で正しい選択肢を選ぶための技術であって、会議で話についていくための技術ではありません。

なお、当サイトのITパスポートの独学におすすめのテキスト3選では「読むより解くほうが記憶に残る」と書いています。矛盾ではありません。目的が違えば、手段が変わるだけです。合格したいなら解く。話がわかるようになりたいなら、読む。

それでも、受験したほうがいい人はいます

「取るな」と言いたいわけではありません。資格そのものが効く場面は、はっきりあります。

  • 新卒で就職活動をする人。公式のメリット3が正面から効きます。実務経験で語れるものがない時期に、勉強した証明が形で残るのは強い
  • 第二新卒でIT業界に移りたい人。未経験からの転職では「独学で基礎を入れた」ことを示す材料が要る場面があります
  • 会社が制度として取得を求めている人。この場合に必要なのは知識ではなく合格証書そのものなので、迷う余地がありません
  • ひとりだと続かない自覚がある人。受験日を先に押さえてしまうのが、いちばん強い強制力になります

ひとつでも当てはまるなら、迷わず申し込んでください。この記事が「受けなくていい」と言っているのは、すでに非IT系で働いていて、資格そのものが評価されない環境にいる人に対してだけです。

範囲だけ読んだ人に起きる変化

——今までのあなた。

打ち合わせでエンジニアが話し始めると、ノートに書く手が止まります。「あそこはオンプレのままで」「そこはAPIで叩いてます」。単語は聞こえているのに、絵が浮かばない。質問しようにも、何がわからないのかが言葉にならない。だからうなずいて、あとで調べようと思って、そのまま忘れる。

——範囲を読むようになった、これからのあなた。

同じ会議で、サーバーの構成の話が始まります。今度は、何の話をしているのかがわかります。

「なるほど、そこは社内に置いてある側なんですね」

口をはさめたのは一言だけです。でも、そこから相手の説明の粒度が変わります。省略が減るのではありません。省略されたままで、通じるようになる。

少し、私自身の話をさせてください。

私はITパスポートを受験していません。IT系の新卒採用や第二新卒の転職なら有効だと思いますが、自分のキャリアに対しては、取っても利点がなさそうだと判断したからです。ただ、ITの知識そのものは欲しかった。だからテキストを読みました。問題演習はしていません。合格証書は1枚もありません。

その後、仕事でPMや設計エンジニアと話す機会が増えました。変わったのは、ネットワークやサーバーの構成の話についていけるようになったことです。資格は何も増えていませんが、会話は通じるようになりました。

「でも、試験を受けないと、途中でやめてしまいそう」——そう思うかもしれません。そのとおりだと思います。強制力がほしいなら、受けたほうがいい。

ただ、やめてもいい前提で始められるのは、受験しない学び方のほうです。3つの分野のうち1つしか読まずに終わったとしても、その1つは残ります。試験なら不合格ですが、目的が知識なら、それは失敗ではありません。

今日、目次を開くところから

やることは2つだけです。

ひとつめ。IPAが公開している出題範囲を開いて、大分類の中から、自分がいちばん困っている分野を1つだけ選ぶ。ネットワークでも、セキュリティでも、データベースでも構いません。会議で聞き流している言葉が、どの分類に入っているかを見るだけで十分です。

ふたつめ。テキストを1冊だけ買って、選んだ分野のページから読む。最初のページから読み通す必要はありません。どれを買うかはITパスポートの独学におすすめのテキスト3選にまとめています。読み通す前提でないなら、図が多くて引きやすいものが向いています。

紙の本より耳から入れたい人には、月額制で講座が受け放題になるサービスという手もあります。ITパスポートの講座も入っているので、合格を目指さないなら、通勤中に聴くだけでも十分に元は取れます。

月額1,628円で資格講座が受け放題 オンスク.JP

受験するかどうかは、読んだあとで決めていい。読んでみて「これは全部やりたい」と思ったなら、そのとき申し込めばいいだけです。順番が逆になって困る人は、どこにもいません。

資格は要らなくても、範囲は要る。あなたが本当に欲しかったのは、たぶん合格証書ではなく、あの会議で置いていかれないことのはずです。

参考文献・出典

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