危険物乙4のテキストで、指定数量の表を開く。50、200、400、1000、2000、4000、6000、10000。数字が並んでいるだけで、頭に入ってくる気配がない。
しかも問題を見ると、こう聞いてきます。
ガソリン100Lと灯油500Lを同じ場所で貯蔵している。指定数量の倍数はいくつか。
表を覚えるだけでは足りないらしい。おまけに「水溶性のものは2倍」という但し書きまである。何をどこまで覚えれば、この設問に手が届くのか分からない。
先に結論を書きます。指定数量は、覚えようとするから覚えられません。
この記事でお渡ししたいのは、法令の中で指定数量だけ勉強のやり方を変えていいという話です。
法令は読んで覚える。指定数量だけは、解いて覚える。
やることは一つです。
法令は読んで覚える。指定数量だけは、解いて覚える。
表を眺める時間をやめて、倍数計算の問題だけを続けて解く。数字は、解いているうちに勝手に貼りついてきます。
一応、第4類の指定数量は下に置いておきます。ただしこれを見つめる時間は、できるだけ短くしてください。
| 品名 | 非水溶性 | 水溶性 |
|---|---|---|
| 特殊引火物 | 50L | |
| 第1石油類(ガソリンなど) | 200L | 400L |
| アルコール類 | 400L | |
| 第2石油類(灯油・軽油など) | 1,000L | 2,000L |
| 第3石油類(重油など) | 2,000L | 4,000L |
| 第4石油類 | 6,000L | |
| 動植物油類 | 10,000L | |
眺めるなと言う理由が3つあります。
根拠1:指定数量は、法令の中で「手が決着をつける」数少ない場所
乙4の法令は35問中15問。中身を並べると、製造所等の区分、保安距離、許可や届出の手続き、免状、定期点検、運搬と移送の基準……と続きます。
これらに共通しているのは、条文を具体的な場面に当てはめて判断するという性質です。乙4の本当の壁が化学ではなく法令にあるのは、まさにこの応用力が要るからでした。読んで、意味を考えて、場面に結びつける。それが法令の基本動作です。
ところが指定数量だけは、性質がまったく違います。
割って、足すだけで答えが確定します。解釈の余地も、場面の想像も要りません。
問われ方も、実質3つしかありません。
- 単一の品目で倍数を出す(貯蔵量 ÷ 指定数量)
- 複数の品目で合計の倍数を出す
- その倍数が1以上か未満かを判定する(1以上=指定数量以上で消防法の規制対象、未満は市町村条例の扱い)
性質も違えば、出方も限られている。だったら、ここだけ勉強法を変えて何の問題もありません。
そして、複数品目には落とし穴が一つだけあります。ここが最大の関門です。
貯蔵量を全部足してから割る、は必ず間違いになります。品目ごとに割って、そのあとで足す。順番が逆です。
冒頭の問題なら、こうなります。
- ガソリン100L ÷ 200L(第1石油類・非水溶性)= 0.5
- 灯油500L ÷ 1,000L(第2石油類・非水溶性)= 0.5
- 合計 1.0倍 = ちょうど指定数量に達している
水溶性で倍になるのも、この形に入れてしまえば怖くありません。割る数が変わるだけだからです。アセトンのような水溶性の第1石油類なら、200Lではなく400Lで割る。手続きは1ミリも変わりません。
根拠2:「なんとなくわかる」は、学習が成立した状態
とはいえ、こう思われたかもしれません。
「意味も分からないまま解けるようになっても、応用問題で崩れるのでは」
ここに、心理学からの答えがあります。
アーサー・レバーが1967年に行った人工文法の実験です。被験者に、一見でたらめに見えて実は複雑な規則で作られた文字列を覚えてもらう。そのあと、初めて見る文字列について「規則に合っているか」を判定させました。
結果、被験者は正しく判定できるようになっていました。それも、自分が使っている規則を言葉で説明できないままです。
これは暗黙学習と呼ばれます。ここから言えることが、いま指定数量で困っているあなたに直接効きます。
「なんとなくわかる」は、理解が足りていない状態ではありません。規則が身についた状態です。
指定数量の計算も同じです。数字と手続きに繰り返し触れているうちに、「ガソリンは200」「灯油はその5倍」といった感覚が、説明できる形をとらないまま先に手に入ります。説明できないことを不安に思う必要はありません。試験で問われるのは説明ではなく、判定だからです。
根拠3:指定数量を手に入れると、消火設備まで一緒に解ける
3つ目は、投資対効果の話です。
指定数量は、そこで完結する知識ではありません。法令の別の設問の土台になっています。
消火設備の分野に「所要単位」という考え方が出てきます。どれだけの消火能力が必要かを測る単位ですが、その決め方がこれです。
危険物は、指定数量の10倍が1所要単位
つまり所要単位=貯蔵量 ÷(指定数量 × 10)。指定数量の割り算がそのまま土台になっています。
ここを手が覚えているかどうかで、消火設備の問題の見え方まで変わります。逆に言えば、指定数量を曖昧なまま置いておくと、別の分野でもう一度同じところでつまずきます。
法令15問のうち、指定数量が直接・間接に関わる範囲は決して狭くありません。一つの反復が二重に効く場所は、法令の中でもここくらいです。
手が動くようになると、試験中の時間が余る
——いまのあなた。
テキストの指定数量の表を開いて、数字を上から目で追っています。50、200、400、1000。3分見て、閉じる。明日にはもう、どれがどれだか分からなくなっています。問題集で複数品目の設問に当たると、そこで手が止まります。
——倍数計算を回したあなた。
問題文を読み終わる前に、手が動き始めます。品目を見つけて、指定数量で割って、足す。考えている感覚がありません。
これ、まず品目ごとに割るやつだ。
——迷う場所が、計算の手順から「この品名は第何石油類か」だけに減っています。
少し、私自身の話をさせてください。
私は平成26年12月に乙4に合格しました。勉強は平日2時間(通勤中にテキストを読む)と休日2時間(問題を解く)を2ヶ月です。化学系の大学を出ているので物理・化学には抵抗がありませんでしたが、法令の中でいちばん覚えられなかったのが、この指定数量でした。
数字そのものも入ってこなければ、計算も分からない。とくに複数品目を貯蔵する場合と、水溶性で倍にするときの計算で、何度も手が止まりました。
結局どうしたか。とにかく問題を繰り返しました。理屈を先に納得しようとするのをやめて、休日の2時間を問題を解くほうに寄せただけです。
そして、こうなりました。
やっていくうちに、なんとなくわかるようになった。
胸を張れる言い方ではありません。ですが今になって思うのは、これで正解だったということです。私は指定数量を理解してから解けるようになったのではなく、解いているうちに分かるようになりました。順番が逆だったのです。
「なんとなく」で不安になる必要はありません。それは、手が先に覚えたというだけの話です。
表を閉じて、倍数計算を10問続けて解いてください
最後に、今日からできることを書きます。
指定数量の表を閉じてください。かわりに、問題集の倍数計算の設問だけを10問、続けて解いてください。分野を横断せず、そこだけを固めて回すのがポイントです。
持って行く鉄則は、一つだけで足ります。
全部足してから割る、は必ず間違い。品目ごとに割ってから、足す。
水溶性は割る数が倍になるだけ。手続きは変わりません。この2行を握って10問回せば、3日目には表を見る回数が目に見えて減ります。
覚えられないのは、あなたの記憶力の問題ではありません。指定数量が、覚える項目ではなく解く項目だったというだけです。
だから、もう一度。
法令は読んで覚える。指定数量だけは、解いて覚える。
手が先でいい。意味は、あとからついてきます。
参考文献・出典
- e-Gov法令検索「危険物の規制に関する政令」別表第三(指定数量) https://laws.e-gov.go.jp/law/334CO0000000306
- 消防試験研究センター「危険物取扱者試験 受験案内」 https://www.shoubo-shiken.or.jp/kikenbutsu/guide.html
- Reber, A. S. (1967). Implicit learning of artificial grammars. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 6(6), 855-863. https://doi.org/10.1016/S0022-5371(67)80149-X

