テキストは買いました。最初の何十ページかは、思ったより読めた。企業活動、経営戦略、法務。知っている言葉もちらほら出てきて、「これならいけそうだ」と思った。
それが、ある章から急に進まなくなる。同じページを3日ほど開いては閉じて、いまこうして「ITパスポート 勉強方法」と検索している。
先に言っておきます。止まった場所は、たぶんあなたのせいではありません。そして止まる場所は、多くの人でほぼ同じです。
止まるのは、たいてい同じ場所
ITパスポートの出題は3つの分野に分かれています。
- ストラテジ系(35問程度)……企業活動、経営戦略、法務、システム戦略
- マネジメント系(20問程度)……システム開発、プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント
- テクノロジ系(45問程度)……基礎理論、コンピュータの構成、ネットワーク、データベース、セキュリティ
手が止まるのは、ほぼ確実に3つめです。
理由ははっきりしています。前の2つは、働いていれば断片的に触れているからです。予算、稟議、契約、著作権、個人情報。プロジェクトの進め方、納期、外注先の管理。言葉としては知らなくても、場面としては知っている。
ところがテクノロジ系だけは、事務職や営業職の日常に、そもそも出てきません。CPU、サブネットマスク、正規化、公開鍵暗号。知らない言葉が、知らない文脈で、延々と並ぶ。ここで多くの人が「自分はITに向いていない」と結論します。
その結論は早すぎます。止まっているのは、意志ではなく順番です。
解決策:テキストを進める努力をやめて、仕事の資料から入る
この記事でお渡ししたいのは、これひとつです。
関わってから、知る。
テクノロジ系で止まったら、テキストを前に進める努力をいったんやめてください。代わりに、自分の仕事で実際に読む必要のある資料を1つ持ってくる。
心当たりはあるはずです。
- 情報システム部門から回ってきた、よく分からないまま「了解しました」と返したメール
- ベンダーから届いた提案書や見積書の、構成図が載っているページ
- 毎年やらされる情報セキュリティ研修の資料や、社内の規程
- 自分が使っている業務システムの、管理者向けマニュアル
その資料を開いて、意味の分からない言葉に印をつけます。そして、その言葉からテキストを開く。目次でも索引でもかまいません。
順番が逆になっただけです。テキストを読んで知識を入れてから仕事で使うのではなく、先に仕事のほうから「読まなければいけない理由」を持ってきて、そのあとに知る。
「そんな都合よく仕事で関わらない」と思うかもしれません。ですが、探すのは新しい仕事ではありません。すでに手元にあって、分からないまま素通りした資料です。それなら、たいていの人が何かしら持っています。
根拠①:テクノロジ系は「いちばん重くて、いちばん縁がない」
まず、止まるのが自然だという裏づけから。
テクノロジ系は45問程度で、3分野の中で最も出題が多い分野です。そして出題範囲を定めたIPAの公式シラバス(Ver.6.5)を数えると、本文59ページのうち内訳はこうなっています。
| 分野 | 出題数 | シラバスの分量 |
|---|---|---|
| ストラテジ系 | 35問程度 | 23ページ |
| マネジメント系 | 20問程度 | 8ページ |
| テクノロジ系 | 45問程度 | 28ページ |
出題数でも分量でも、テクノロジ系が最大です。
ここに、非IT系の会社員にとっての事情が重なります。3つのうち、日常の仕事にまったく接点がないのはテクノロジ系だけです。つまりこの試験は、あなたにとっていちばん縁のない分野に、いちばん大きな分量を割り当てているということになります。
ストラテジ系が読めてテクノロジ系で止まったのは、能力の差ではありません。読めた2つは、あなたがすでに関わっていた分野だったというだけです。であれば、打つ手も決まります。関わっていないから止まったのなら、関わりを作ればいい。
根拠②:興味は生まれつきではなく、あとから育つ
「でも、興味が持てないものは無理だ」——ここがいちばんの壁だと思います。
教育心理学者のヒディとレニンガーは2006年、興味の4段階モデルという枠組みを示しました。興味は「ある人/ない人」で分かれる固定的な性質ではなく、次の順で育っていくという考え方です。
- 外からのきっかけで一時的に関心が向く(状況的興味が引き起こされる)
- その関心がしばらく続く(状況的興味が維持される)
- 自分から関わりたくなる(個人的興味の芽生え)
- 放っておいても続く(個人的興味の確立)
重要なのは出発点です。最初のきっかけは、内側からは湧きません。外から与えられます。そして与えられた関心は、放っておけば消えるが、支えがあれば個人的な興味へ育つ。
つまり「興味が持てない」は、才能の判定ではなくまだ1段階目に入っていないだけです。そして仕事の資料は、この1段階目をつくる装置として、かなり優秀です。読まないと困るという事情が、外からのきっかけそのものだからです。
好きになる必要はありません。必要になれば足ります。
根拠③:自分に関係づけた情報は、記憶に残る
もうひとつ、なぜ「自分の職場の資料」でなければならないのかという話です。
ロジャーズらが1977年に行った実験があります。参加者に単語を見せ、4通りの方法で処理させました。文字の形を見る、音を聞く、意味を考える、そして「その言葉は自分に当てはまるか」を判断する。あとから抜き打ちで思い出させたところ、最後の「自分に当てはめて考えた」単語が、いちばんよく思い出せました。
これは自己参照効果と呼ばれています。同じ言葉でも、自分に関係づけて処理したときだけ記憶への残り方が変わる、という結果です。
ここが、市販テキストの例題と、自分の職場の資料の決定的な違いです。テキストに出てくる「A社のネットワーク構成図」は、意味の処理で終わります。ですが自分の会社の構成図に出てくる同じ言葉は、自分に関係のある情報です。処理のされ方が違う。
だから、遠回りに見えて速いのです。テキストを10ページ我慢して読むより、自分の会社の資料に出てきた1語を調べるほうが、残ります。
よくある疑問に、2つだけ答えます
基本の型そのものは、テキスト1冊と過去問でいい
この記事は「勉強法を全部これに変えろ」という話ではありません。基本の型は、テキストを1冊決めて読み、過去問を繰り返す。これで変わりません。どの本を選ぶかはITパスポートの独学におすすめのテキスト3選にまとめています。
この記事の話が必要になるのは、その型が回らなくなったときです。テクノロジ系で手が止まったら、そこだけ入口を変える。読めているうちは、普通に読み進めてください。
テクノロジ系を丸ごと捨てることはできない
「苦手な分野は捨てて、得意な分野で稼ぐ」という作戦は、この試験では使えません。合格には総合600点以上に加えて、3分野それぞれで300点以上が必要だからです。テクノロジ系だけ0点に近ければ、他が満点でも不合格になります。
逆に言えば、受けると決めた以上、テクノロジ系から逃げ切る道はないということです。だからこそ、根性で押し切るのではなく、入口を変える価値があります。
なお「そもそも受験までする必要があるのか」を迷っている方は、ITパスポートは意味ない?|資格は要らなくても、範囲は要るを先に読んでください。受けないと決めるなら、この足切りの話は関係なくなります。
資料から入る人が、半年後に立っている場所
——今までのあなた。
テキストのネットワークの章。同じ図を、もう3日見ています。読んでいる最中から、頭に入っていない自覚がある。ページの端を折って、今日も閉じる。「向いていないのかもしれない」という考えが、だんだん本気になってくる。
——仕事の資料から入るようになった、これからのあなた。
机の上には、先週ベンダーから届いた提案書があります。構成図のページ。前は目が滑っていたところに、印をつけた言葉が5つ。それを1つずつ、テキストで引いていきます。
3つめを引いたところで、手が止まります。今度は、進まないからではありません。
「これ、うちの話だ」
そこからは早い。テキストの同じページが、今度は答え合わせとして読めるようになっています。
少し、私自身の話をさせてください。
私もテクノロジ系で止まりました。仕事で使っているわけでもなく、進みが悪く、そこで完全に手が止まったというのが正直なところです。興味が持てないと厳しい、といまでも思っています。
変わったきっかけは、勉強のやり方ではありませんでした。仕事でその分野の資料を読む必要が出て、理解しないと困る状況になったことです。そうしたら、知りたいと思い始めた。そこから理解が進みました。順番は完全に、関わるのが先で、知るのがあとでした。
その結果どうなったかは、別の記事にも書きましたが、PMや設計エンジニアとの会話——とくにネットワークやサーバーの構成の話に、ついていけるようになりました。いちばん進みが悪かった分野が、いちばん役に立った分野になったというのが、正直な実感です。
「それは仕事でたまたま関わったからでしょう」と言われれば、そのとおりです。ただ、たまたまを待つ必要はありません。すでに手元にある、分からないまま通り過ぎた資料を1つ開くだけで、同じきっかけは自分で作れます。
今日、分からないまま閉じた資料を1つ開く
やることは3つだけです。
ひとつめ。受信箱か共有フォルダを開いて、IT関連の資料を1つ選ぶ。情シスからのメール、ベンダーの提案書、セキュリティ研修の資料。「よく分からないまま処理したもの」ほど向いています。
ふたつめ。意味の分からない言葉に、印をつける。3つでも5つでも構いません。全部調べようとしなくていいので、まず印をつけるところで止めてください。
みっつめ。その言葉から、テキストを開く。最初のページからではなく、索引から引く。1語につき1ページで十分です。
もし手元に読むべき資料が本当に1枚もないなら、動画や音声の講座から入る手もあります。月額制で講座が受け放題になるサービスにはITパスポートの講座もあるので、活字で止まっているなら入口を変える価値はあります。勉強時間そのものが作れないという場合は、働きながら資格勉強を続ける方法もあわせてどうぞ。
テクノロジ系で止まったことは、向いていない証拠ではありません。まだ関わっていないというだけの話です。関わってから、知る。順番を入れ替えるだけで、同じテキストが読めるようになります。
勉強を始める前に、合格後の扱いも見ておくと目標が具体的になります。そもそも資格でお金が増える道は2本あり、性質が正反対です。合格時に1回だけ出る一時金は年収に残らず、毎月の給与に乗る資格手当だけが積み上がります。ITパスポートは会社に「置け」と命じる法律がない資格なので、どちらが出るかは会社の給与規程だけが決めています。 → 資格手当がない会社|もらったのは25万円、上がらなかったのは月給
参考文献・出典
- 情報処理推進機構(IPA)「ITパスポート試験 出題範囲・シラバス」 https://www3.jitec.ipa.go.jp/JitesCbt/html/about/range.html
- Rogers, T. B., Kuiper, N. A., & Kirker, W. S. (1977). Self-reference and the encoding of personal information. Journal of Personality and Social Psychology, 35(9), 677-688. https://doi.org/10.1037/0022-3514.35.9.677
- Hidi, S., & Renninger, K. A. (2006). The four-phase model of interest development. Educational Psychologist, 41(2), 111-127. https://doi.org/10.1207/s15326985ep4102_4

